美しい自然と素朴な人情が豊かに息づいている赤泊地区には、今日まで受け継がれてきた数多くの民話があります。民話は、長い間の経験と知恵をもつ暮らしの中から生まれた先人からの語りであり、生活の中から自然に育まれてきた貴重な文化であると言えます。 ここでは、赤泊地区の民話を紹介していきます。
八専三郎・土用五郎
むかし、赤泊の竹伐り職人で力持ちの「八専三郎(はっせんさぶろう) 」と、越後一の力士で対岸の寺泊の井戸掘り職人「土用五郎(どようごろう)」は、 毎年春の八専に寺泊で、夏の土用には赤泊の浜辺で相撲の勝負をした。
ところが、三郎の留守中に伐った竹は、虫がついて使い物にならず、五郎の留守中に土方仕事をすると怪我人が出た。 以来、「春の八専竹伐るな。虫がつく」、「土用の五日は井戸を彫るな。怪我をする」と戒められるようになり、この昔話は対岸の寺泊と赤泊とのスポーツ・文化交流の原点とも考えられている。
爪の沢蝶ねえ
赤泊港から約8キロほど山に登ったところの山田地区(今の爪の沢キャンプ場)でのお話。 山田に住むあんちゃんは、ある日今まで見たことも無いような蝶を見つけ、どうしてもその蝶を捕まえたくてどんどん山奥へ入っていく。
そこには、見知らぬ家があり中からきれいなあ ねさん(蝶ねえ)があんちゃんがくるのを待っていた。あんちゃんは毎日毎日そのあねさんと仲むつまじく暮らしていくが、何年か経ちあんちゃんはどうしても家に帰りたくなり、蝶ねえに別れを告げる。
そして、約束として今までの暮らしのことを他人に喋ってはいけないと。しかし、あんちゃんはとうとう喋ってしまい、村人と蝶ねえの家を訪ねてみるが、そこには蝶ねえの姿はなかった。
川茂の太郎杉
良質な杉の生命で有名な旧赤泊村川茂地区に伝わる話で、大きい杉の精霊と地元の娘との恋を描いたものです。奉行所の命令で切り倒されることになる大杉。その霊魂、いわゆる神が宿っているという考え方が根底にあり、粗末に扱ってはいけないという昔の人の伝承が込められている民話。
実際に江戸後期に、伐られ現在は切り株だけ残っているが、周囲約14メートル、掛齢は2千年といわれ、現在ではその切り株を後世まで保存しようと館を建て、太郎杉公園として整備されている。
悲しい佐渡牛
佐渡は昔から和牛の産地であり、農耕用に、また繁殖用に1軒に1~2頭は飼われていた。 佐渡には、優秀な佐渡牛を繁殖させるため、雄牛を売っても雌牛は島外に出してはいけな いという不文律があったが、後継ぎに優秀な子牛が生まれたため母牛を越後に売ってしまう。
越後の浜で下ろされた母牛は、佐渡を目指し泳ぎだした。船頭たちは船で追いかけるも逆風のため、捕まえることができなかった。
一昼夜泳ぎ続け帰ってきた母牛は、カ尽きて赤泊・大杉地区の浜に沈んだと語り伝えられている。それから、その浜を「たたずが浜」と言うようになったという「母性愛」を描いた民話である。